読書メモ:『実力も運のうち』

『実力も運のうち』を読んだ。マイケル・サンデル先生の本。


『実力も運のうち』は邦題だけど、今年話題になった「親ガチャ」という言葉もそうだけど、なんとなく漂っていてる不満をズバッというキーワードだなと思った。元も子もないんだけど、たしかにと思う。

この本ではトランプ氏が大統領になったことと、ブレグジットを象徴的な出来事にすえていて、昨今の「能力至上主義」への警鐘を鳴らしている。
トランプ氏が大統領になった2016年の選挙では、東西沿岸部のエスタブリッシュメントではない、「取り残されたヒルビリー」が注目された。上位1%の人々が99%の富を持っているなんて話もあって、「負け組」の人々の叛逆がトランプさんを大統領に担ぎ上げたって話。あの選挙の日はなんとなく自分も目が離せなかったし、友達と色々とは熱っぽく話した思い出がある。

 

アメリカを筆頭に、世界では「能力至上主義」の価値観が根付いていてー「勝ち組」にも「負け組」の両者にもー、それは平等な機会のもとで行われた競走で、磨き上げた能力で勝ち取った結果は、いずれの結果であっても本人が引き受けるものだという価値観だ。それは自由と平等である事の素晴らしさである一方で、「勝ち組」は謙虚さをなくすし(俺の手柄)、「負け組」は今の惨めな状況は全て自分のせいだと引き受けるしかない。それは辛いことだ。能力=学歴になっているのも問題。
そもそも「機会の平等」は幻想だし(生まれた土地柄や実家の裕福さで結果はほぼ決まっている)、市場での成功とその人の価値は別問題だ(市場相場は需要と供給の均衡に過ぎない)。ある程度「お互い様」精神が必要だという話だったと思う。要点としては感覚的にわかっている話だけど、本書では詳細に論じている。

サンデル氏は、経済的に貧窮している人々への金銭的な分配が大事だとする一方で、「労働の尊厳」の重要性も指摘している。「負け組」になった人々の不満は、お金に困っているだけではないからだ。自分のしてきた仕事が不要とされ、自分が社会に役立てないことに苦しんでいるという。

「労働の尊厳」はどうなんだろう、自分はわりとサンデル氏の意見に共感していて、仕事は食い扶持としてしか考えない人もいるみたいだけど、そうはいっても、できることなら自分のしている仕事が世の中の役に立っていると思いたいし、手応えを感じたいんじゃないだろうか。自分は森博嗣みたいにはなれない。
そうであれば、ベーシックインカムもそれ単体ではダメなんだろうなと思う。生活していける最低限のお金をもらえたら、次は社会への貢献とか、帰属意識みたいなものを求め出すと思う。お金で解決できる問題とできない問題。

公共哲学の問題だから答えはなかなか出ないんだけど、今の社会にダイレクトに影響する話だし、楽しく読めました。