読書メモ:『絵画で読む『失われた時を求めて』』

著者は岩波で『失われた時を求めて』の翻訳した吉川氏。『失われた時を求めて』で引用されている絵画や風景描写の元ネタの絵画をカラー図版入りで解説した内容となっている。絵画そのものだけでなく、例えば1909年5−6月に開催された「睡蓮—水の風景」展をプルーストは見たか、少なくとも通暁していたはずといったことまで言及されている。

岩波版では、本文の注釈として絵画などの図版がたくさん入れられていたそうだ。随分前だけど自分は集英社版で読んだことがあり、その時は図版があった記憶がない、だから新鮮な気持ちで復習できた。やはり視覚イメージがあるのは大きい。
集英社版7巻の表紙のイラストの左にいる男はたしかシャルリュスであり、自分はずっとこのドン・ガバチョみたいな風貌でシャルリュスを思い浮かべていた。しかし、シャルリュスの描写で引用されている「枢機卿フェルナンド・ニーニョ・デ・ゲバラの肖像」は全く異なる風貌でびっくりした。

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当時の読者はどれくらい引用されている絵画を知っていたのかが気になる。相当な知識人じゃないと分からない気がするけど。村上春樹が引用するカルチャーをわかっていなくても読んでいるように、当時の大半の人も全ては把握しておらず、なんとなく読み飛ばしていたのではないかと想像する。引用された作品は単に外見のイメージの補助線でなく、その絵の持つ性質が内面を仄めかすような使われ方もしているそうだ(聖バスティアヌスの裸体画像は同性愛者に好まれていた)。アスパラガスの解説が印象的。