日記形式だから短い時間でも区切りよく読めるし、文章自体も時代を感じさせずに読みやすかった。太宰ってこんなに読みやすかったっけ。
16歳の青年が志高く決心しては翌日にやる気無くしていたり、でもそれにユーモアがあるので楽しく読めた。太宰はもっと深刻なイメージがあったけど、これなら好きだな。
登場人物もキャラが立っていた。主人公はもちろんのこと兄さんとの兄弟愛がよかったし、チョッピリ叔母さんとか姉さんも良い。中篇とは思えない引き出しを感じた。
十六になったら、僕という人間は、カタリという音をたてて変ってしまった。p9
何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるということが大事なのではなくて、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。p17
絶対孤独。いままでの孤独は、謂わば相対孤独というようなもので、相手を意識しすぎて、その反撥のあまりにポーズせざるを得なくなったような孤独だったが、きょうの思いは違うのだ。まったく誰にも興味がないのだ。p143
いや、ほとんど民衆の生活の現実的な手助けばかりだと言っていいかも知れない。そうしてその手助けの合間合間に、説教するのだ。はじめから終りまで説教ばかりでは、どんなに立派な説教でも、民衆は附きしたがわぬものらしい。p148-149
人間なんて、どんないい事を言ったってだめだ。生活のしっぽが、ぶらさがっていますよ。p150