『ナイン・ストーリーズ』を読んだ。いつぶりだろう、7-8年くらい前になると思う。今回は家にあった柴田訳を読んだ。もちろん野崎訳も読んでるから、3回目かな。何もかもすっかり忘れてしまった。
少し前に読んだ『謎ときサリンジャー』が面白かったから、そのタイミングで「バナナフィッシュ」だけ読み直してそれっきりだった。つい最近『彼女の思い出/逆さまの森』を買ったってのもあって、まずは『ナイン・ストーリーズ』読み切ろうと思った次第です。
で、9つ全部読んだけど、全部面白かった。以前読んだ時よりピンときた。「バナナフィッシュ」の印象が強かったけどなかなかどうして、どれも良い。「コネチカットのアンクル・ウィギリー」*1「エスキモーとの戦争前夜」の洒落た会話もいいし、「笑い男」は子供らしからぬ語り口も作中作もよかった。「バナナフィッシュ」「エスキモー」「エズメに」ではいろんな角度で戦争の影を感じた。「テディ」はシーモア感がある。
そして残りの2作、「可憐なる口もと 緑なる君が瞳」「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」のテイストが他の7作と違うなと感じた。「可憐なる口もと」はほぼ電話での会話しかなくて、正直これが一番印象が薄かった。サリンジャーが得意なタッチでサラサラと書いたような印象。
「青の時代」はクスッと笑ってしまう語り口が「笑い男」に近く、しかし「笑い男」のような切なさはなくて、全体としてとぼけたムードがあったように思う。芸術家を志す主人公は嘘の履歴書で美術学校の講師になるんだけど、そこの先生夫婦が静かで奇妙な感じだし、義理の母や出来の悪い生徒も良い。手紙における主人公の語り口が慇懃で面白かったし、最後の一文に笑ってしまった。9編の中で一番ストーリーがしっかりしていて、読み応えがあった。『Revolver』の「Yellow Submarine」というか、一見場違いに思えるけど短篇集全体のバランスをよくしていると思った。